大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

奈良地方裁判所 昭和61年(行ウ)8号 判決 1993年3月31日

原告

橋本一之

外三九八名

右原告ら訴訟代理人弁護士

田川和幸

内橋裕和

松原脩雄

右原告ら訴訟復代理人弁護士

三住忍

福井英之

被告

大和郡山市長

阪奥明

右訴訟代理人弁護士

岡惠一郎

田中駿介

山崎晴夫

被告

吉田一郎

右両名訴訟代理人弁護士

大槻龍馬

谷村和治

平田友三

安田孝

被告大和郡山市長補助参加人

医療法人岡谷会

右代表者理事

岡谷鋼

右訴訟代理人弁護士

吉田恒俊

峯田勝次

伊賀興一

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一被告大和郡山市長が、同被告補助参加人に対し、別紙物件目録(一)及び(二)記載の土地建物並びに同目録(三)記載の各動産の返還請求を怠っている事実が違法であることを確認する。

二被告吉田一郎は、大和郡山市に対し、昭和六一年五月一日から別紙物件目録(一)及び(二)記載の土地建物明渡済みまで、一か月あたり金二三五万六三四〇円の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、大和郡山市の住民である原告らが、被告大和郡山市長に対し、同被告が同被告補助参加人に大和郡山市所有の別紙物件目録(一)及び(二)記載の土地建物を賃貸し、同目録(三)記載の各動産を無償で貸し付けているのは、行政財産の貸付等を禁止する地方自治法二三八条の四第一項等に違反するとして、同法二四二条の二第一項三号に基づき、同被告がそれらの返還請求を怠っている事実の違法確認を求めるとともに、当時大和郡山市長であった被告吉田に対し、同被告が右土地建物の賃貸を開始したのは、大和郡山市に対する不法行為を構成するとして、同項四号に基づき、明渡済みに至るまでの適正賃料との差額相当額の損害賠償を求めた住民訴訟である。

一争いのない事実等

1  原告らは、いずれも大和郡山市の住民であり、被告吉田一郎は、昭和六一年当時、大和郡山市長の地位にあった者である。

2  大和郡山市は、総額五億七六八〇万六一七六円を費やして、別紙物件目録(一)記載の土地(以下、「本件土地」ともいう。)を病院用地として購入し、右土地上に同目録(二)記載の病院用建物を建設し(以下、「本件建物」ともいう。なお、本件土地及び本件建物を合わせて「本件土地建物」ともいう。)、さらに、右建物内に同目録(三)記載の医療機器等の動産(以下、「本件動産」という。)を設置した。

3  被告大和郡山市長(以下、「被告市長」という。)と同被告補助参加人(以下、「補助参加人」という。)とは、昭和六一年四月二四日、補助参加人が医療及び保健業務を行うことを目的として、本件土地建物を同日から月額六四万三六六〇円で賃貸し、かつ、本件動産を無償で貸し付ける旨の契約を締結し(以下、「本件契約」という。)、被告市長は、昭和六一年五月一日、これらを補助参加人に引き渡した。奈良県知事から本件土地建物で病院を開設することの許可を得ていた補助参加人は、同日から医療法人岡谷会片桐民主病院の名称で診療を開始した(<書証番号略>)。

4  原告らは、昭和六一年五月一四日、大和郡山市監査委員に対し、被告市長が締結した本件契約は、行政財産の貸付等の禁止を定めた地方自治法(以下、「法」という。)二三八条の四第一項等に違反するとして、本件土地建物及び本件動産の返還等を求める旨の監査請求をしたところ、監査委員は右請求に理由がないと認めて、同年七月一〇日、その旨原告らに通知した(<書証番号略>)。

二主要な争点

1  本件土地建物及び本件動産は、法二三八条三項にいう行政財産か。

(原告らの主張の要旨)

(一) 行政財産と普通財産との分類の基準は、行政財産が本来行政の目的に供することを目的とするものであるのに対し、普通財産は直接行政上の目的に供するのではなく、主として経済的価値の保全発揮により、その管理処分から生じた収益を地方公共団体の財源に充て、間接に地方公共団体の行政に貢献せしめるため管理又は処分されるものであるという点に求められるべきである。

ところで、地方公共団体は、その公共事務を処理し(固有事務)、そのうち本来の公共事務として地方公共の福利を増進するための各種の事業の経営又は施設の設置管理に属する事務を行うこととされている。そして、法二条三項六号にはその固有事務の代表例として病院の設置管理が例示されている。

本件土地建物及び本件動産(これは、本件建物の従物である。)の取得経緯をみると、それらは大和郡山市において自ら病院を設置管理することを予定して取得されたことが明らかであり、したがって、それらは同市の固有事務の実現手段として取得されたものとみうるから、いずれも行政財産にあたると考えるべきである。

(二) そうすると、本件契約は、行政財産の貸付等の禁止を定めた法二三八条の四第一項等に違反する無効なものである。

(被告ら及び補助参加人の主張の要旨)

行政財産は地方公共団体自身の行政執行の物的手段として供用されるものであることから、法は原則として貸付、交換、売却、譲与等を禁止しているのであって、このことからすると、当該公有財産を地方公共団体自身が直接、特定の行政目的のために供していない場合には、右財産は行政財産にはあたらないというべきである。

大和郡山市は、自ら直接病院を経営することを意図して本件土地を取得し、本件建物を建築したものではないうえ、現に本件土地建物において病院を直接経営しているわけでもないから、本件土地建物は行政財産ではない。また、このことは、昭和五九年一二月の同市議会において、担当部長である市環境衛生部長が、病院を市の直営とする考えはない旨答弁していることや、本件土地建物に関する各公有財産異動通知書において、本件土地建物はそれぞれ「普通財産土地」、「普通財産建物」とされていることからも明らかである。

2  本件土地建物及び本件動産が普通財産ないしは物品であるとした場合、被告市長が補助参加人に対し、それらを賃貸し、あるいは無償で貸し付けるのは適法か。

(原告らの主張の要旨)

本件契約で定められた本件土地建物の賃料は適正賃料(月額三〇〇万円を下ることはないと解される。)を大幅に下回っており、また、本件動産は無償とされているから、それらを貸し付けるには、大和郡山市の「財産の交換、譲与、無償貸付等に関する条例」(昭和三九年三月二七日大和郡山市条例第四号。以下、「本件条例」という。)四条(1)の要件を充足する必要があるところ、「公共的団体」ではない補助参加人は右の要件を充足しない。そうすると、本件土地建物等を補助参加人に貸し付けるについては、法九六条一項六号により、議会の議決を経る必要があることになるが、本件ではそのような議決はなされていない。したがって、普通財産の貸付とみても、本件契約は無効である。

(被告ら及び補助参加人の主張の要旨)

(一) 本件土地建物の賃料額は、補助参加人に本件土地建物を賃貸するに至った諸事情によると「適正な対価」といえるから、その賃貸は法二三七条二項に照らしても適法である。もし仮に「適正な対価」とはいえないとしても、本件条例四条(1)によると、普通財産は公共的団体において公共または公益事業の用に供するときには、これを無償または時価よりも低い価格で貸し付けることができるものとされているところ、医療法人として長年にわたり大和郡山市から片桐地区の医療保健事務の委託を受け、住民の日常生活にとって欠くことのできない医療サービス等を提供し続けている補助参加人は右の要件を充足するから、補助参加人に対し、本件土地建物を時価よりも低い価格で貸し付けるのも右規定により適法である。

(二) 本件条例七条によると、物品は公益上の必要があるときは私人にも無償又は時価よりも低い価額で貸し付けることができるとされているところ、補助参加人は前記のような事業を遂行しているのであるから、補助参加人に対し、物品である本件動産を無償で貸し付けるのは右規定により適法である。

第三争点に対する判断

一争点1について

1  証拠(<書証番号略>、証人大倉、同田村、同北嶋、同陣内)及び弁論の全趣旨によると、本件土地建物及び本件動産が、補助参加人に貸し付けられるに至った経緯は、以下のとおりであると認められる。

(一) 現在の大和郡山市の片桐地区にあたる旧片桐町では、昭和二五年ころ、町内の池之内に町立中央診療所を、西田中に町立西田中診療所をそれぞれ開設し、住民に対して医療サービスを提供していたが、やがて両診療所とも経営不振を来すに至ったため、昭和二九年三月から医療法人である補助参加人に両診療所の運営を委託することにした。

旧片桐町は昭和三二年四月に大和郡山市に合併され、以後同市が補助参加人との右委託関係を継承することになったが、相変わらず経営状態が改善されなかったことから、昭和三四年ころ、同市は補助参加人との間の契約更新を取り止め、それまでの運営を委託する方式から、両診療所の建物設備を補助参加人に貸与し、経営自体は補助参加人に委ねる方式へと改めることにした。

その後、両診療所の建物は次第に老朽化し、地域住民からも新築の要望があったため、大和郡山市は、昭和三六年、西田中に片桐民主病院を、小泉町に小泉診療所をそれぞれ建設し、これらを補助参加人に無償貸与するとともに、公衆衛生の一部と医療業務を委託する旨の契約を締結した。こうして、昭和三七年春には、補助参加人によって両診療機関での診療が開始されるに至った。

(二) 昭和四五年ころ、大和郡山市でも同和対策長期基本計画が立案されることになったが、その際、昭和三六年に新築された片桐民主病院の建物が再び老朽化していたことや、右計画によると同病院の敷地が道路用地になると予想されたことから、同計画による同和対策事業の一環として、同市新町に同病院に代わる病院を新設することになった。そして、同市では、この新設病院の経営を従来どおり医療機関に委ねる方針であり、これを市の直営とする考えは持ち合わせていなかった。

(三) 病院新設の計画は昭和五五年度になって実行に移され、まず、同年度に本件土地が病院用地として購入された。そして、昭和五九年一二月ころから、本件土地上に病院用建物である本件建物の建築工事が開始され、昭和六〇年一一月にはその工事も完了して、最新の医療機器等である本件動産が本件建物に搬入された。

(四) このように計画が現実のものとなった際にも、新設病院を市が直営することになると、医師等の医療スタッフの確保に困難を伴うことや当時計画されていた二〇床程度の規模では経営が赤字となることが予想されたため、右病院を市の直営とはせずに医療機関に経営を委ねるとの前記方針はそのまま維持されており、建築工事開始直前の昭和五九年一二月五日に開催された大和郡山市議会においても、担当部長である同市環境衛生部長が議員の質問に対してその旨明確に答弁していた。

ところが、その後、部落解放同盟奈良県連合会大和郡山支部協議会(以下、「解放同盟」という。)から右病院を市の直営とし、補助参加人をその経営から排除すべきであるとの要望が再三にわたってなされ、その運営方式の決定に苦慮した被告市長は、昭和六一年一月になって、その決定の参考に資するため、学識経験者、市議会推薦者、医師会推薦者、地元自治会推薦者、解放同盟推薦者等から成る「新設病院の運営に関する運営委員会」(以下、「運営委員会」という。)を同被告の諮問機関として設置し、その運営方式を検討することにした。右運営委員会は、同年三月までの間に前後七回にわたって開催され、いくつかの運営方式についての検討がなされたが、そこでも市の直営とすることは前記と同様の理由から難しいとの意見が大勢を占め、最終的には第三セクター方式を指向すべきであるとの答申がなされた。しかし、その答申によっても、どういう形で第三セクターを構成するかという点すらも明らかではなく、また、開院が急がれたこともあって、被告市長は、従来の方針どおり新設病院の経営を医療機関に委ねることとし、最終的には補助参加人に引き続きその経営を委ねることとして、本件契約を締結した。

(五) なお、大和郡山市の公有財産異動通知書によると、本件土地は普通財産土地に、本件建物は普通財産建物にそれぞれ分類されている。

これに対し、原告らは、病院が新設されるに際して、昭和五九年度予算では「同和対策市立病院建設事業費」、同年度補正予算では「同和対策市立病院建設に伴う医療機器購入費」、昭和六〇年度予算では「(仮称)市立病院建設工事費」などの名目でいずれも同和対策費から予算措置が講じられていること、また、被告市長と解放同盟との交渉においても市立の病院とすることが確認されていたことなどを根拠に、新設病院は同和対策市立病院として市の直営とすることが予定されていたと主張する。なるほど、証拠(<書証番号略>)によると、右各年度の予算あるいは補正予算において、原告らが主張するような名目でいずれも同和対策費から予算措置が講じられていることが認められ、また、それらに関連する支出命令書等においても新設病院を指す名称として「(仮称)大和郡山市立病院」との表現が散見される。しかし、前認定のように、市議会においても担当部長である同市環境衛生部長は市の直営とはしない旨明確に答弁しているうえ、「(仮称)」との留保が付された部分も少なくないこと、また、前認定のように、かつて大和郡山市では、旧片桐町から引き継いだ直営診療所を経営赤字の問題から直営のまま維持することを断念した経緯があることなどを総合すると、予算上前記のような表現が用いられていたとしても、それのみでは、新設病院を市の直営とすることが予定されていたとみることはできない。また、原告らが主張するように、仮に被告市長が解放同盟との話し合いの中で新設病院を市立の病院とすることを確認していたとしても、新設病院をどのような方式で運営するかは、医療スタッフの確保の問題であるとか、予算の問題であるとかの、大和郡山市全体としての総合的な政策判断の中で決定されるべきものであって、被告市長の一存で決められるべき問題ではないことが明らかであるから、そのことのみでは、同市が新設病院を市の直営とすることを決定していたといいうるものでもない。したがって、右のような原告らの主張は採用できない。

2  そこで、以上の経緯を前提として、本件土地建物等が行政財産にあたるか否かを検討する。

(一) 法は、普通地方公共団体の所有に属する財産のうち不動産等の一定のものを公有財産とし(法二三八条一項)、さらに公有財産を行政財産と普通財産とに分類している(同条二項)。右のうち、行政財産は、公用に供する財産(地方公共団体がその事務又は事業執行のために直接使用することを目的とする財産)、公共の用に供する財産(主として公の施設の物的構成要素として住民の一般的共同利用に供することを本来の目的とする財産)及び将来、公用又は公共用に供するものと決定した財産とから成り(同条三項)、それらは一定の場合を除いて原則として貸付け、交換、売り払い、譲与等が禁止されている(法二三八条の四)。ところで、法がこのように行政財産の管理及び処分について厳格な制約を設けたのは、右のような行政財産の内容自体からも明らかなように、それらが地方公共団体自身による行政執行の物的手段として、直接、特定の行政目的達成のために供されるからであって、このことからすると、公有財産を地方公共団体自身が直接、特定の行政目的達成のために供しない場合には、仮に右財産が間接的に地方公共団体の行政に貢献する機能を果たしたとしても、当該財産は行政財産にはあたらないというべきである。

これをまず本件土地建物についてみるに、前認定のとおり、大和郡山市は、本件土地を病院用地として購入し、同土地上に本件建物を病院用建物として建築したが、当初から右病院を同市の直営とする意図はなく、外部の医療機関にその経営を委ねる方針であったのであり、しかも、途中、運営委員会にその運営方式を諮問したことはあったものの、最終的には右方針にしたがって、医療機関である補助参加人にその経営を委ねたのである。そうすると、右病院の設置が、地域住民らに対する医療、保健サービスの向上という行政目的達成に貢献する機能を果しているとしても、大和郡山市自身が、直接、右目的達成のために本件土地建物を供しているわけではなく、また、将来、直接、右目的達成のために供すると決定されたわけでもないから、本件土地建物は、行政財産にはあたらないというべきである。

また、本件動産は、それぞれの用途、性質からみて本件建物自体の従物とみうるものではなく、法二三七条にいう「物品」にすぎないと解されるから、そもそも公有財産としての行政財産にはあたらないことは明らかである(法二三八条一項、二項参照)。

(二) これに対し、原告らは、前記のように、本件土地建物及び本件動産は、法二条三項六号に定める固有事務実現のため、大和郡山市自らが病院を設置管理することを予定して取得されたものであるから、公共用に供される財産として行政財産に分類されると主張する。しかし、同市が自ら病院を設置管理することを予定して本件土地を取得し、本件建物を建設したのではないことは前認定のとおりであり、また、原告らの右主張が、本件土地建物は市がその予算で取得しあるいは建設した病院用地、病院用建物であることを強調して公共用に供する財産にあたるとするものであるとしても、地方公共団体自身が公用又は公共用に使用するものでない公有財産の管理及び処分につき、行政財産として厳格な制約を課する実質的理由がないことは前記のとおりである。したがって、原告らの右主張は採用できない。

3  なお、原告らは、本件土地建物及び本件動産は公の施設としての病院であるから、法二四四条の二第三項により、その管理を委託できるのは公共団体又は公共的団体に限られるところ、公共性を確保するための長の指揮監督権が及ばず、かつ、日本共産党の政治活動をしている補助参加人は、右にいう公共的団体とはいえないから、補助参加人に対し、賃貸という形でその管理を委託するのは同項に違反するとも主張するが、法二四四条一項にいう「公の施設」とは、住民の福祉を増進する目的をもって住民の利用に供するため、地方公共団体が直接設置する施設を意味し、前記のように、補助参加人が奈良県知事の許可を得て設置した病院である本件病院は、右の「公の施設」にはあたらないことは明らかであるから、原告らの右主張は、その前提自体に誤りがあるというべきである。

二争点2について

1  本件土地建物の賃貸について

(一) 争点1で認定したとおり、本件土地建物は大和郡山市の行政財産にはあたらず、普通財産にあたるものと解される。

ところで、普通財産を適正な対価によらないで貸し付けることは原則として禁止され、ただ、地方公共団体の公共的施策実施等のために必要がある場合には、条例又は議会の議決により無償又は時価よりも低廉な価格で貸し付けることができるものとされている(法二三七条二項)。大和郡山市では、財産の交換、譲与、無償貸付等に関して本件条例が制定されており、その四条には「普通財産は、次の各号の一に該当するときは、これを無償又は時価よりも低い価格で貸し付けることができる。」と規定されたうえ、その(1)で「他の地方公共団体その他公共団体又は公共的団体において公用若しくは公共又は公益事業の用に供するとき。」と規定されている。そこで、本件土地建物の賃料が適正な価格であるかどうかを検討する前に、補助参加人に対する本件土地建物の賃貸が、本件条例四条(1)の要件を充足するかどうかについて検討する。その検討にあたっては、補助参加人が、同条(1)にいう「公共的団体」にあたるか否か、また、補助参加人の行う事業が「公共又は公益事業」にあたるか否かが検討されるべきである。

(二) 補助参加人は、前認定のように、昭和二九年三月から旧片桐町からの委託を受けて前記各診療所での医療業務を開始し、同町が大和郡山市に合併された後も、右各診療所を引き継いだ病院等で医療業務を継続するとともに、同市の公衆衛生の一部である地域住民の健康管理、健康診断等の業務を行ってきた。加えて、証拠(<書証番号略>)によると、補助参加人は、その事業が医療の普及及び向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与し、かつ、公的に運営されていることにつき政令で定める要件を満たすものとして、大蔵大臣から租税特別措置法六七条の二第一項に基づく税法上の優遇措置を受けることの承認を受けていることが認められる。

以上の事実によると、補助参加人は、公共的な活動を営む団体を意味する「公共的団体」にあたると解されるうえ、その事業内容も「公共又は公益事業」にあたると解されるから、補助参加人に対する本件土地建物の賃貸は、本件条例四条(1)の要件を充足するものと認められる。そうすると、前記賃料が適正であるかどうかを判断するまでもなく、補助参加人に対する本件土地建物の賃貸は適法である。

2  本件動産の無償貸付について

本件動産は前認定のように物品であると解されるから、補助参加人に対し本件動産を無償で貸し付けることが許されるかどうかは、「物品は、公益上の必要があるときは、他の地方公共団体その他の公的団体又は私人に無償又は時価よりも低い価格で貸し付けることができる。」と規定する本件条例七条の要件を充足するかどうかにかかることになる。

そこで、この点について検討するに、補助参加人の営む前記事業に照らすと、医療機器等である本件動産を補助参加人に貸し付けることは、公益上の必要があると解するのが相当であり、しかも、同条では私人に対する無償貸付も認められていることから、補助参加人に対する本件動産の無償貸付は、同条の要件を充足しているものと認められる。したがって、補助参加人に対する本件動産の無償貸付は適法である。

三以上で検討してきたとおり、本件土地建物の賃貸、本件動産の無償貸付については、原告らが指摘するような違法はないことが明らかであり、原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。

(裁判長裁判官大石貢二 裁判官山田賢 裁判官齋藤正人)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例